食物アレルギーの基礎知識

食物アレルギーとは

「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」をいう。

  • 食べたり、触れたり、吸い込んだりした食物に対して、体が過敏に反応して起こる症状。
  • 食物不耐症(乳糖不耐症、ヒスタミン中毒など)は免疫学的機序を介さないため食物アレルギーには含まない。
  • 食物アレルギーの機序は、免疫学的に「IgE依存性反応」と「非IgE依存性反応」に大きく分けられる。

食物アレルギーの機序(IgE依存性の場合)

図1 食物アレルギーの機序

食物アレルゲンについて

  • アレルゲンはアレルギーを引き起こす物質のことで、食物アレルゲンの大部分は食物に含まれるタンパク質である。
  • タンパク質はアミノ酸が鎖状につながり、らせん状やシート状に折り畳まれた構造(形)をしている。特異的 IgE抗体はこの構造の決まった場所に結合する(図2)。
  • タンパク質は加熱や酸・酵素により形が変化したり(変性)(図2)、消化酵素の働きでアミノ酸のつながりが切断される(消化)。特異的IgE抗体が結合する場所の形が変化すると、IgE抗体が結合しにくくなり、アレルギー症状が出にくくなる。これを低アレルゲン化という。

図2 タンパク質の低アレルゲン化

食物アレルギー診療ガイドライン2021(日本小児アレルギー学会)から改変

交差抗原性について

  • 共通の形をしたタンパク質を持つ2つのアレルゲンに結合する特異的IgE抗体が存在することを交差抗原性があるという。
  • 交差抗原性のある食物の両者にアレルギー症状が出る場合を臨床的交差反応性という。しかし、両者とも、またはどちらかにアレルギー症状が出ない場合もある。

食物アレルギーの臨床型

表1 IgE依存性食物アレルギーの臨床型分類

食物アレルギーの診療の手引き2020
  • 食物アレルギーは「IgE依存性食物アレルギー」と「非IgE依存性食物アレルギー」に分類される。
  • IgE依存性食物アレルギーは、症状などの特徴から表1に示す4つのタイプ(臨床型)に分類される。
  • 非IgE依存性食物アレルギーには、新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症(Non-IgE-GIFAs)が含まれる。これは新生児・乳児消化管アレルギーとも同義。新生児・乳児期早期に嘔吐や血便、下痢などの消化器症状を認める。牛乳、最近増えている卵黄、他に大豆、コメ、小麦などを原因とする食物蛋白誘発胃腸炎症 候群(FPIES)も含まれる。
用語解説
IgE抗体血中にある免疫グロブリンの一種
特異的IgE抗体特定のアレルゲンに結合するIgE抗体
感作特異的IgE抗体が作られ、マスト細胞などに結合して、再びアレルゲンが入ってきたときにアレルギー反応が生じ得る状態になること
耐性獲得(寛解)加齢とともに原因食物が症状なく摂取できるようになること
略語解説
FDEIAfood-dependent exercise-induced anaphylaxis
Non-IgE-GIFAsnon-IgE mediated gastrointestinal food allergies
OASoral allergy syndrome
FPIESfood protein-induced enterocolitis syndrome

食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎

乳児アトピー性皮膚炎に合併して認められる食物アレルギー。食物に対するIgE抗体の感作が先行し、湿疹の増悪に関与する原因食物の摂取によって即時型症状を誘発することもある。ただし、すべての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない。

即時型症状

食物アレルギーの最も典型的なタイプ。原因食物摂取後、通常2時間以内にアレルギー反応による症状を示すことが多い。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)

原因食物を摂取後に運動することによってアナフィラキシーがおこる病態。原因食物摂取から2時間以内におこることが多い。感冒、睡眠不足や疲労などのストレス、月経前状態、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)服用、アルコール摂取や入浴なども症状をおこす原因となる。

口腔アレルギー症候群(OAS)

食物摂取直後から、唇・口の中・喉のかゆみ、喉の違和感、腫れなどを来す。花粉-食物アレルギー症候群
(PFAS)では果物や野菜の摂取によるOASを来すことが多い。

略語解説
FDEIAfood-dependent exercise-induced anaphylaxis
OASoral allergy syndrome
NSAIDsnon-steroidal anti-inflammatory drugs
PFASpollen-food allergy syndrome

食物アレルギーの症状

全身のあらゆる臓器に症状が誘発されうるが、特に皮膚症状が多い。 中にはアナフィラキシーショックとなり、生命の危険を伴う場合もある。

皮膚症状

あかみ、じんましん、腫れ、かゆみ、しゃく熱感、湿疹

粘膜症状

白目の充血・腫れ、かゆみ、涙、まぶたの腫れ
鼻水、鼻づまり、くしゃみ
唇や舌の腫れ、口の中の刺激感や違和感

呼吸器症状

喉の違和感・かゆみ・締め付けられる感じ、声がかすれる、飲み込みにくい 、
咳、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」、胸が締め付けられる感じ、息苦しい、唇や爪が青白い(チアノーゼ)

消化器症状

気持ちが悪くなる、嘔吐、腹痛、下痢、血便

神経症状

頭痛、元気がない、ぐったり、不機嫌、意識もうろう、尿や便を漏らす(失禁)

循環器症状

血圧低下、脈が速い、脈が触れにくい、脈が不規則、手足が冷たい、
顔色・唇や爪が白い(末梢循環不全)
図3 食物アレルギーの症状

アナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会)

アナフィラキシーとは

アナフィラキシーは重篤な全身性の過敏反応であり、通常は急速に発現し、死に至ることもある。重症のアナフィラキシーは、致死的になり得る気道・呼吸・循環器症状により特徴づけられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もある。

  • 軽症の症状が複数あるのみではアナフィラキシーとは判断しない。
アナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会)

アドレナリン自己注射薬(エピペン®)について

  • エピペン®はアナフィラキシーの既往がある患者やリスクの高い患者に処方される。
  • エピペン®は、医師の治療を受けるまでの間に症状の進行を一時的に緩和する補助治療薬である。
  • エピペン®使用後は直ちに医療機関を受診する。
  • 保育所および学校において緊急の場に居合わせた関係者が、エピペン®を使用できない状況にある本人の代わりに注射することは医師法違反とはならない。
  • エピペン®が処方されている患者でアナフィラキシーショックを疑う場合、下記の症状が一つでもあれば使用すべきである。

表2 緊急性が高い症状

一般向けエピペンの適応(日本小児アレルギー学会)

即時型食物アレルギーの疫学

食物アレルギーの有症率は乳児が7.6%-10%1)2)、 2歳児が6.7%2)、 3歳児が約5%1)2)、保育所児が 4.0%3)、学童以降が1.3-4.5%4)5)とされている。原因食物は鶏卵、牛乳、小麦が多い。年齢ごとにその頻度は異なり、幼児期は木の実類、魚卵類、学童期になると、甲殻類、果物類などが新たな原因となる。また、近年、木の実類の増加が著しく、特にクルミによる食物アレルギーの増加が報告されている。

1) Ebisawa M, et al. J Allergy Clin Immunol 2010;125:AB215
2) Yamamoto-Hanada K, et al. World Allergy Organization J 2020;13:100479
3) 柳田紀之 他.アレルギー 2018;67:202-10
4) 今井孝成.日本小児科学会雑誌 2005;109:1117-22
5) 日本学校保健会 平成25年度学校生活における健康管理に関する調査 事業報告書 2014

全年齢における原因食物

図4 全年齢における原因食物の割合

今井孝成, 杉崎千鶴子, 海老澤元宏. アレルギー 2020;69:701-5

新規発症症例

表3 年齢群ごとの新規発症例

今井孝成, 杉崎千鶴子, 海老澤元宏. アレルギー 2020;69:701-5

食物アレルギーの予後

  • 乳児・幼児早期の即時型食物アレルギーの主な原因である鶏卵、牛乳、小麦は、その後加齢とともに多くは耐性を獲得する。
    池松かおり 他. アレルギー2006;55:533-41
    Ohtani K, et al. Allergol Int 2016;65:153-7
    Koike Y, et al. Int Arch Allergy Immunol 2018;175:177-80
    Koike Y, et al. Int Arch Allergy Immunol 2018;176:1-6
  • 学童から成人で新規発症するIgE依存性食物アレルギーの原因食物は甲殻類、魚類、小麦、果物類、木の実類が多く、耐性獲得の可能性は乳児発症に比べて低い。

発症予防

  • ハイリスク児(両親・同胞に一人以上のアレルギー患者がいる児)に対する妊娠中と授乳中の母親の食物除去は推奨されていない。
  • 食物アレルギーの発症予防を目的に離乳食の開始を遅らせることは推奨されていない。
  • アトピー性皮膚炎の乳児では、アトピー性皮膚炎の治療を十分に行った上で、鶏卵アレルギー発症予防を目的に、医師の管理のもと、生後6か月から鶏卵の微量摂取を開始することが推奨されている。
    鶏卵アレルギー発症予防に関する提言(日本小児アレルギー学会)
  • 米国では、ピーナッツアレルギー発症予防を目的に離乳時期の早期にピーナッツを含む食品の摂取を開始することが推奨されている。ただし、重症の湿疹を持つハイリスク児には皮膚プリックテストなどを行い、陽性者には病院内で試験摂取又は専門医へ紹介など、慎重な対応を求めている。

表4 食物アレルギーの発症予防のまとめ

食物アレルギー診療ガイドライン2021(日本小児アレルギー学会)