総論

食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」をいう。

食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎

食物に対するIgE抗体の感作を認め、食物が湿疹の増悪に関与するタイプ。ただし、すべての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない。皮疹が消失した後には、即時型症状に移行することも多い。

即時型症状

食物アレルギーの最も典型的なタイプ。原因食物摂取後、通常２時間以内にアレルギー反応による症状を示すことが多い。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)

原因食物を摂取後に運動することによってアナフィラキシーが誘発される病態。原因食物摂取から2時間以内に誘発されることが多い。感冒、睡眠不足や疲労などのストレス、月経前状態、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)服用、アルコール摂取や入浴なども誘発因子となる。FDEIAとして経過観察されていても、運動なしに食物の摂取だけで症状が出ることがあるので注意が必要である。

口腔アレルギー症候群(OAS)

用語解説口唇・口腔・咽頭粘膜におけるIgE抗体を介した即時型アレルギー症状を呈する病型。食物摂取直後から始まり、口唇・口腔・咽頭のかゆみ、咽頭違和感、血管性浮腫などを来す。花粉-食物アレルギー症候群では果物や野菜の摂取によるOASを来すことが多い。

花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)

花粉アレルゲンと果物や野菜などの食物のアレルゲンとの交差反応により、花粉アレルギー患者が食物アレルギー症状をきたす病態。主にIgE抗体を介した口腔粘膜を主体とする即時型アレルギー症状(OAS)を呈するが、稀に全身症状を認める。

ラテックス-フルーツ症候群

ラテックス(天然ゴム)アレルゲン(Hev b 6.02など)と果物や野菜アレルゲンとの交差反応により、ラテックスアレルギー患者が食物アレルギー症状をきたす病態。アボカド、クリ、バナナ、キウイフルーツなどの摂取で OASのみならずアナフィラキシーをきたす症例が多い。

用語解説

交差抗原性

共通の構造をしたエピトープが異なるタンパク質に存在し、その両者に特異的IgE抗体が結合すること。

交差反応性

交差抗原性に起因して症状が誘発されること。

PR-10

シラカンバ花粉の主要アレルゲンであるBet v 1 と相同性を持つ感染特異的タンパク質のひとつ。加熱によって低アレルゲン化されやすい。

プロフィリン

植物に広く分布する汎アレルゲン。アレルギー症状への関与は一部の患者に限られている。

GRP

モモのPru p 7など、強いアレルギー症状を誘発することが明らかにされてきたタンパク質。

略語解説

FDEIA

food-dependent exercise-induced anaphylaxis

GRP

gibberellin-regulated protein

NSAIDs

non-steroidal anti-inflammatory drugs

OAS

oral allergy syndrome

PFAS

pollen-food allergy syndrome

PR-10

pathogenesis-related protein-10

遅発性IgE依存性食物アレルギー(PGA、α-Gal)

IgE依存性にも関わらず、数時間〜半日経過してから蕁麻疹やアナフィラキシーが出現する。

納豆アレルギー(PGAアレルギー)

納豆摂取後に遅発性に症状が誘発される場合、大豆や納豆菌由来ではなく、納豆の粘稠物質であるポリ- γ-グルタミン酸(PGA)が主要な原因抗原とされる。PGAは分子量が大きいため吸収されにくく、腸管内で緩徐に分解され吸収されるため症状の誘発までに数時間〜半日を要すると考えられている。検査はプリックテストを行う。発症者には海で活動するサーファーのほか、漁業や養殖業など水産関連業従事者が報告されており、クラゲなどの刺胞動物にくり返し刺されることでPGAに感作されるという仮説が提唱されている。

肉アレルギー(α-Galアレルギー)

糖鎖であるα-Galが原因抗原として関与する場合、α-Galを豊富に含む牛や豚などの非霊長哺乳類肉を摂取した数時間〜半日後にアレルギー症状が誘発される¹⁾²⁾³⁾。唾液成分にα-Galを含むマダニ咬傷により感作されることで体内にα-Galを認識する特異的IgE抗体が産生される。抗がん剤のセツキシマブもマウス由来の Fab領域にα-Galを有するため、投与時にアレルギー症状が誘発される⁴⁾。また、交差反応のためにカレイ魚卵摂取後にもアレルギー症状が誘発される⁵⁾。検査は保険適用外であるが、α-Gal特異的IgE抗体が診断に有用である。

その他の肉アレルギー(アルブミンアレルギー)

ペット等の血清アルブミンに感作され、肉アレルギーを発症することがある。pork-cat syndromeでは、ネコ血清アルブミンであるFel d 2に経気道的に感作されることにより、豚・牛・羊等の肉類摂取によりアレルギー反応を起こす¹⁾。問診では、ネコの飼育歴やネコとの接触歴を聴取する。保険適用の検査では、豚肉とネコ(フケ・皮屑)特異的IgE抗体が測定でき、ある程度診断を推測できる。保険適用外の検査ではブタ血清アルブミン(Sus s 1)とネコ血清アルブミン(Fel d 2)の特異的IgE抗体が診断に有用である。また、類似の疾患としてbird-egg syndromeがあり、長期に鳥を飼育していた人が、羽毛や糞などに含まれる血清アルブミン(αリベチン︓Gal d 5)に経気道的に感作されることにより、鶏卵(とくに卵黄)と鶏肉摂取でアレルギー反応を起こす²⁾³⁾。

略語解説

PGA

poly γ-glutamic acid

α-Gal

galactose-α-1,3-galactose

飲料・食料品には栄養成分のほかに風味の改善や品質の保存・安定化のために人工的に添加された物質や自然界ないしは生活環境から混入・汚染が成立する物質などが混在している可能性があり、それらがアレルゲンとして作用しアレルギーを発症する誘因になり得ることを知っておく必要がある。

コチニール(カルミン・カルミン酸)

• 多肉植物の葉に寄生するカイガラムシに由来する赤色の着色料であり、飲料・酒類、菓子(チョコレート、マカロンなど)、ハムやソーセージ、かまぼこなどの加工食品に使用されてきた。
• 口紅やアイシャドウなどの中に含まれていることがあり、それらを主に使用する女性で経皮的・経粘膜的に感作が成立していることが多いとされる。

エリスリトール

• トウモロコシを原材料にした糖アルコールの一種で、コーヒーや紅茶、清涼飲料水、野菜ジュース、栄養ドリンク、スナック菓子やチューインガム、ハードキャンディ等に甘味料として広く添加されている。

アニサキス

• アニサキスは魚介類の寄生虫の一種で、成人における魚介類摂取後のアナフィラキシーのエピソードを有する患者に関しては、アニサキスアレルギーを鑑別する必要がある。
• アニサキスの寄生率が高い魚介類(サバ、アジ、カツオ、イワシ、ブリ、ホッケ、イカなど)の生食後に症状を起こすことが多い。

経口ダニアナフィラキシー(パンケーキ症候群)

• 開封後に常温で小麦粉やお好み焼き粉、ケーキミックス粉を長期間保存すると、生活環境中に生息するダニが混入し、その中で繁殖が進む。それらを使用して調理されたお好み焼きやたこ焼きをダニに感作されている人が摂取すると、即時型アレルギーによる蕁麻疹や呼吸器症状、アナフィラキシーを発症し得る。

調理業従事者における職業性食物アレルギー

調理師や食物を扱う業務に従事している人は、扱っている食物に感作され、食物アレルギーを発症することがある。感作ルートは経気道感作と手湿疹を介した経皮感作とがあり得る。魚や甲殻類などが原因になることが多い。

化粧品使用に関連した食物アレルギー

化粧品、ボディクリーム、ヘアケア製品等に含まれる食物由来成分や食物と交差抗原性を有するタンパク質成分に経皮・経粘膜感作されることにより、食物アレルギーを発症することがある。

わが国では、加水分解コムギを含有していた「(旧)茶のしずく石鹸」の使用者に小麦アレルギーが発生した事例が2011年に社会問題になった。また、赤色化粧品の使用者にコチニール色素によるアレルギーを発症した例も少なくない。その他、大豆、オート麦、トウモロコシ、魚や鶏のコラーゲン、ダチョウ卵黄エキスなどが原因となった症例報告もある。

化粧品の使用では症状を自覚していないこともあるが、原因物質を含む食品の摂取時には重篤であることが多い。重症化予防の観点からも、使用している化粧品や日用品を問診し、感作の原因を特定することが重要である。

消化管アレルギー

消化器症状を示すアレルギーの総称。IgE依存性、非IgE依存性と両方の性質を持つ混合性の3つに分類される。IgE依存性食物アレルギーには表1に示す臨床型があり、非IgE依存性には、食物蛋白誘発胃腸症が、混合性には好酸球性消化管疾患が含まれる。

《食物蛋白誘発胃腸症》

食物蛋白誘発胃腸症(Non-IgE-GIFAs)

以前は新生児発症が多く、新生児・乳児消化管アレルギーと呼ばれていた。 FPIES、FPIAP、FPEが含まれる。主に非IgE依存性(細胞性免疫)の機序により嘔吐や血便、下痢などの消化器症状を呈する。わが国では、牛乳由来調製粉乳例は発症率0.2%であり横ばいだが、FPIESは固形食物例が増加している。

食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)

食物蛋白誘発胃腸症(Non-IgE-GIFAs)に含まれる。国際的なガイドライン*がある。原因食物摂取後 1〜4時間で嘔吐し、その後、下痢(時に血便)を認める典型例をacute FPIES、原因食物の連日摂取で発症し、除去後の原因食物の摂取ではacute FPIESを示すものをchronic FPIES と定義されている。また最近では卵黄や大豆、コメ、小麦などによるsolid(固形物)FPIESが増加しており、成人例も存在する。乳児期発症例の固形FPIESの2/3は2歳までに耐性を獲得する。FPIESの急性期は救急対応が必要である。非即時型であり、アドレナリンは効果が乏しいとされ、十分な補液を必要とする。

略語解説

FPE

food protein-induced enteropathy

FPIAP

food protein-induced allergic proctocolitis

FPIES

food protein-induced enterocolitis syndrome

Non-IgE-GIFAs

non-IgE-mediated gastrointestinal food allergies

《 消化管アレルギー関連疾患 》

好酸球性消化管疾患(EGIDs)

好酸球の消化管への高度な浸潤により消化器症状をきたすアレルギー性炎症性疾患。主として食道に好酸球浸潤がみられる好酸球性食道炎(EoE)と、それ以外の消化管に高度な好酸球浸潤を来す非食道好酸球性消化管疾患(non-EoE EGIDs)に大別される。特定の食物アレルゲンが同定されないこともある。診断には病理検査が必須であり、疑った場合の内視鏡検査(複数部位から生検)を行えない診療科は、消化器内科など行える診療科に紹介する。

有症率

わが国におけるIgE依存性の食物アレルギー有症率は諸家の報告より、乳児が7.6%-10%¹⁾²⁾、 2歳児が 6.7%²⁾、3歳児が約5%¹⁾²⁾、保育所児が4.0%³⁾、学童以降が6.3%⁴⁾とされている。全年齢を通して、わが国では推定1-2%程度であると考えられる。欧米では、フランスで3-5%⁵⁾、 アメリカで3.5-4%⁶⁾、 3歳の6%⁷⁾に既往があるとする報告がある。

即時型食物アレルギーの疫学

令和2年(2020年)即時型食物アレルギー全国モニタリング調査結果【調査対象】何らかの食物を摂取後60分以内に症状が出現し、かつ医療機関を受診したもの

自然歴

• 乳児・幼児早期の即時型食物アレルギーの主な原因である鶏卵、牛乳、小麦は、その後加齢とともに多くは耐性を獲得する。
  池松かおり 他. アレルギー 2006;55:533-41
  Ohtani K, et al. Allergol Int 2016;65:153-7
  Koike Y, et al. Int Arch Allergy Immunol 2018;175:177-80
  Koike Y, et al. Int Arch Allergy Immunol 2018;176:1-6
• 学童期まで遷延した即時型食物アレルギーでも、一部は加齢とともに耐性獲得する。
  Taniguchi H, et al. Int Arch Allergy Immunol 2022;183:14-24
  Kubota K, et al. Pediatr Allergy Immunol 2023;34:e14064