診断

問診上のポイント

  • 疑われる原因食物、摂取時の症状と時間経過、発症年齢、乳児期の栄養方法、食習慣、環境因子、既往歴、アレルギー疾患の家族歴、服薬状況(成人におけるβ遮断薬、非ステロイド性抗炎症薬 [NSAIDs])、運動との関連など
  • 特に成人では、発症の原因となるアレルゲン曝露ルートの検索のために、花粉症症状、職業性の食物曝露の有無、ラテックス手袋・化粧品等使用時のアレルギー症状の有無などについても確認する。
  • 魚介類摂取後のアレルギー症状の鑑別として、アニサキスアレルギーとヒスタミン中毒がある。また、小麦アレルギーと間違いやすい病態としてダニの経口摂取によるアナフィラキシーなどがある。
  • 経皮感作による食物アレルギーを疑う場合、使用部位のアレルギー症状の有無にかかわらず、化粧品等の成分を確認する。

各種検査の特徴と適応

一般血液検査

  • 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎の経過中や除去食物の多い患者に、末梢血好酸球数の増加、鉄欠乏性貧血、肝機能障害、低蛋白血症、電解質異常がみられることがあるので、必要に応じて一般検査を行う。

血中抗原特異的IgE抗体検査

  • 抗原特異的IgE抗体陽性(=感作されていることを示す)と食物アレルギー症状が出現することとは必ずしも一致しないことを念頭におくべきである。
  • 花粉と果物など吸入抗原と食物抗原間、甲殻類と軟体類など食物抗原間の交差抗原性により抗原特異的IgE抗体陽性になることがある。
  • 抗原特異的IgE抗体の測定として本邦では定量性の高いイムノキャップ、アラスタット3g Allergy、 オリトン IgE、定量性は十分ではないが多項目を同時測定できるマストイムノシステムズ、Viewアレルギー39、ドロップスクリーンがある。
  • マストイムノシステムズ、Viewアレルギー39、ドロップスクリーンは原因不明の食物アレルギーの検索などスクリーニング検査として位置づけられ、診断や臨床経過の評価に用いることは推奨できない。
  • アラスタット3g Allergyとイムノキャップの結果(数値)は同一検体を測定しても一致するとは限らない。特に鶏卵では測定値が大きく異なる。
    長尾みづほ 他. 日本小児アレルギー学会誌 2013;27:170-8
    Sato S, et al. Allergol Int 2017;66:296-301
  • 我が国における抗原特異的IgE抗体価(卵白・オボムコイド、牛乳、小麦・ω-5グリアジン、大豆、ピーナッツ、ソバ、イクラ)による食物経口負荷試験(OFC)のプロバビリティー (症状誘発の可能性) が報告されている。主にイムノキャップによるものだが、アラスタット3g Allergyの報告もある。
  • アレルゲンコンポーネントに対する特異的IgE抗体検査(オボムコイド、ω-5グリアジン、Ara h 2、Ana o 3、 Jug r 1、 Gly m 4、Hev b 6.02)を併用することで食物アレルギーの診断精度は高くなる。
  • 特異的IgE抗体価は加齢とともに変化するため、乳幼児では6〜12か月、学童期以降も1年を目安に検査する。
  • 表8 保険収載されている食物アレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体検査

用語解説
イムノキャップ
抗原特異的IgE抗体を測定する方法の一つでセルロースのスポンジにアレルゲンを吸着させる方法。プロバビリティー(症状誘発の可能性)はイムノキャップに基づく場合が多い。
アラスタット3g Allergy
抗原特異的IgE抗体を測定する方法の一つで液相にあるストレプトアビジン結合ビーズにアレルゲンを吸着させる方法。
オリトンIgE
抗原特異的IgE抗体を測定する方法の一つで多孔性ガラスフィルターにアレルゲンを吸着させる方法。
アレルゲンコンポーネント
アレルゲンを構成する個々のタンパク質成分。
略語解説
OFC
oral food challenge

プロバビリティカーブ(イムノキャップ値と症状誘発の可能性)

図3 プロバビリティカーブの例
表9 プロバビリティカーブの結果に影響する主な因子

1)Komata T, et al. J Allergy Clin Immunol 2007;119:1272-4
2)Komata T, et al. Allergol Int 2009;58:599-603
3)Ebisawa M, et al. Int Arch Allergy Immunol 2012;158:71-6
4)Haneda Y, et al. J Allergy Clin Immunol 2012;129:1681-2
5)Ebisawa M, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2015;3:131-2
6)Beyer K, et al. Allergy 2015;70:90-8
7)Furuya K, et al. Allergy 2016;71:1435-43
8)Yanagida N, et al. Pediatr Allergy Immunol 2017;28:348-54
9)Sato S, et al. Allergol Int 2017;66:296-301
10)Yanagida N, et al. Int Arch Allergy Immunol 2017;172:116-22
11)Yanagida N, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2018;6:658-60
12)Yanagida N, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2019;7:2084-6

皮膚テスト

  • 皮膚プリックテストは抗原特異的IgE抗体検査と同様に診断感度は高いが、OFCと比較して特異度は低い。
    Sampson HA. J Allergy Clin Immunol 1999;103:981-9
  • 抗原特異的IgE抗体検査で検出できない乳児食物アレルギーの原因抗原の検索において、皮膚プリックテストは特に有用である。
    緒方美佳 他. アレルギー 2008;57:843-52(鶏卵), アレルギー 2010;59:839-46(牛乳)
  • 口腔アレルギー症候群においてはprick-to-prick test(原因食物そのものを用いた皮膚プリックテスト。たとえば果物をプリック針で刺してから皮膚に適用する。)の有用性が高い。
    Sicherer SH. Pediatrics 2003;111:1609-16
  • prick-to-prick testでは、原因食物の調理形態、品種、部位などで反応が異なるため結果の解釈には注意が必要である。
  • OASや成人のエビや大豆アレルギーの診断では、特異的IgE抗体検査よりprick-to-prick testの診断精度が高い。

血中抗原特異的IgGとIgG4抗体検査に関する注意点

即時型症状の診断のフローチャート

図4 即時型症状の診断のフローチャート

食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎の診断のフローチャート

図5 食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎の診断のフローチャート

注1:スキンケア指導
スキンケアは皮膚の清潔と保湿が基本であり、詳細は「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」などを参照する。
注2:抗炎症外用療法
抗炎症外用薬の使用方法については「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」などを参照する。非ステロイド系外用薬は接触皮膚炎を惹起することがあるので注意する。
注3:皮疹残存
ステロイド外用薬の連日塗布により一時的に皮疹が消失しても、塗布間隔を空けると皮疹が再燃するため連日塗布から離脱できない状態
注4:皮膚プリックテスト
生後6か月未満の乳児では抗原特異的IgE抗体は陰性になることもあるので、皮膚プリックテストも有用である。
注5:除去試験
食物の関与が強く疑われる場合に限り食物除去試験(疑わしい原因食物を1週間程度完全除去し皮膚の状態を評価)を行う。除去試験後にOFCで最終的には判断する。

食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎の専門医紹介のタイミング