Ⅰ 診療
- Q1 妊娠・授乳期の母親の食生活を工夫すると食物アレルギーは予防できるか
- 妊娠および授乳中の母親の食生活の工夫(特定のものを積極的に食べる、あるいは、特定のものを食べない、乳酸菌などのプロバイオティクスやオリゴ糖などのプレバイオティクス、葉酸などのサプリメントを使用するなど)をしても、子どもの食物アレルギーは予防できないと考えられています。また母乳栄養、ペプチドミルク(E赤ちゃん®等)、加水分解乳のいずれも食物アレルギーの予防に効果を認められていません。報告によっては粉ミルクが牛乳アレルギー予防に効果があるとするものもありますが、結論は定まっていません。
- Q2 食物アレルギーは治りますか
- 即時型食物アレルギーは原因食物によって治りやすいものと治りにくいものがあります。
乳幼児に多い鶏卵、牛乳、小麦のアレルギーは3歳までに5割、小学校の就学までに7-8割が治ると言われています。それ以外の原因食物は全般的に治りにくく、例えばピーナッツアレルギーで自然に治る可能性は1-2割程度と考えられています。重症児は中等症以下の児よりも治りにくい傾向があります。
他の病型で「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」は幼児期に治りやすく、食物依存性運動誘発アナフィラキシーや口腔アレルギー症候群は治りにくいと考えられています。 - Q3 食物アレルギーは遺伝しますか
- 食物アレルギーに関わらず、アレルギーの病気は遺伝と環境によって発症すると考えられます。このうち体質的なアレルギー素因は遺伝すると考えたほうがよいでしょう。
しかし例えば親がそばアレルギーであっても、子どもにそばアレルギーが遺伝するわけではありません。素因が遺伝し、発症には環境因子が重要となります。日本スギ花粉症は我が国では大きな問題となっていますが、外国ではスギ花粉症患者がほとんどいないのは環境が異なるからであり、食物アレルギーも同様のことがいえます。 - Q4 食物アレルギーと間違えられやすいものはありますか
- 鮮度の落ちた魚に多く含まれるヒスタミンによりじんましんなどの症状が出るヒスタミン食中毒や、消化酵素の不足により乳製品を摂取すると下痢になる乳糖不耐症は一見すると食物アレルギーと間違われやすいです。また、食物にはアレルギー様の症状を起こし得るさまざまな生理活性物質が含まれています。それらの摂取によりアレルギー様症状が出ることがあります。これらは発症に免疫的機序を伴わないため食物アレルギーではありません。
- Q5 食物アレルギーは血液検査の結果だけで診断できますか
- 食物アレルギーは血液検査(特異的IgE抗体検査等)や皮膚試験だけで診断することはできません。食物アレルギーの診断は、①原因と考えられる食物を食べてアレルギー症状が誘発されること、②その食物に感作(特異的IgE抗体検査や皮膚試験が陽性)されていることの両方が確認されることで診断されます。ただし、特異的IgE抗体値が非常に高い場合など、その食物でアレルギー症状が出る可能性が高いと判断される場合は、食べた経験がなくても医師の判断で除去を指示されることがあります。
- Q6 食物経口負荷試験はどのように行うのですか
- 食物経口負荷試験(以下負荷試験)は外来または入院管理のいずれかで行い、費用は保険診療内でまかなわれます。アレルギー症状が出ることがあるため、速やかに症状を良くするための治療ができる体制で行うことが必要です。
負荷試験の方法の詳細は医療機関により多少異なります。これまでのアレルギー症状の重症度や特異的IgE抗体値等を参考にして、負荷試験で食べる量(総負荷量)を医師の判断で決めます。負荷試験の食品は1回または複数回(2-5回)に分割して徐々に量を増やしながら食べます。例えば牛乳負荷試験を2回に分割して実施する場合、牛乳が含まれる食品もしくはそのものを用い、はじめは全体の1/4量を摂取させ、摂取後20~60分程度経過を見ます。アレルギー症状が出なければ、その後残りの3/4量を摂取させてさらに経過を見ます。最後に摂取してから2時間程度はアレルギー症状が出ないか経過を見ます。アレルギー症状が出た場合にはその時点で摂取することを終了し、症状を良くするための治療を行います。 - Q7 原因食物の除去解除はどのように進めますか
- 原因食物の除去解除は医師の判断に基づいて進めます。負荷試験を行い食べられる量を確認します。少量や中等量の負荷試験でアレルギー症状が出なかった場合には、自宅で同じ量の食品を繰り返し食べてアレルギー症状が出ないか確認します。少量や中等量が食べられることを確認した後は次のステップ、即ち少量の場合は中等量、中等量の場合は日常摂取量の負荷試験を行い、より多い量の食品が食べられるかを確認します。最終的に日常摂取量が食べられることが確認できれば除去解除となります。
例えば牛乳アレルギーの患者さんの場合、負荷試験で牛乳50mlを飲んでアレルギー症状が出なければ、一定期間は50mlを上限として自宅で繰り返し摂取し、安全性が確認されればその次には牛乳100mlの負荷試験を受け、より多い量を摂取できるかを確認します。最終的に日常的に摂取する量(牛乳200ml以上)を症状なく飲める(食べられる)ことが確認できれば除去解除となります。
本文P.20,24,27参照 - Q8 近隣の医療機関で負荷試験を受けられない場合にはどうしたら良いですか
- 近隣の医療機関で負荷試験を行っていない場合には、下記のホームページ等を参考にして負荷試験を行っている医療機関を紹介してもらいましょう。年に数回、食物アレルギーの診療を受けるために負荷試験を行っている医療機関に通院し、誤食などで万が一アレルギー症状が出た時の対応は近隣の医療機関を受診する場合が多いです。
食物経口負荷試験実施施設一覧参照 - Q9 アレルゲン性は、加熱すれば低下するのですか
- 全ての食物アレルゲンのアレルゲン性(アレルギーを起こす力)が加熱すると低下するわけではありません。アレルゲンが加熱により変性(たんぱく質の形が変わる)する場合はアレルゲン性が低下します。例えば、鶏卵による即時型アレルギーや果物・野菜による口腔アレルギー症候群の原因となるアレルゲンは、加熱するとアレルゲン性が低下するため症状が出にくくなります。一方、小麦やピーナッツ、甲殻類、魚類のアレルギーでは加熱によるアレルゲン性の低下はありません。